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高松高等裁判所 昭和49年(く)1号 決定 1974年1月29日

少年 N・H(昭三〇・三・一六生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、記録に綴つてある抗告状に記載のとおりであり、要するに原決定は、少年の要保護性と保護者の保護能力につき事実を誤認し、在宅保護により十分再非行を防止し得るにかかわらず、中等少年院送致という著しく不当な処分をしたものであり、取り消しを免れないものである、というのである。

よつて記録を精査し検討するに、少年は、○○薬品株式会社に雇われ、自動車を運転してセールスマンの業務に従事していたものであるが、(一)昭和四八年七月一六日香川県観音寺市○○町×××番地の×先の見とおしの悪い交差点で、右方道路の安全確認を怠つたまま時速約四〇キロメートルの高速で普通貨物自動車を運転進行させた過失により、右方から交差点に進入して来た○西○勝運転の軽四輪乗用車に自車を衝突させ、よつて同人に全治約一二〇日を要する第六胸椎圧迫骨折等の傷害を負わせ、(二)同年九月九日同県○○郡○○町○○×××-×付近道路で、指定最高速度五〇キロメートル毎時を二六キロメートルも超過する時速七六キロメートルで普通乗用自動車を運転し、(三)同年一〇月三日観音寺市○○町×××番地先道路上で、道路端に駐車中の軽四貨物自動車を発進させるに際し、十分後方を確認せず右斜にこれを発進させた過失により、後方から進行して来た○井○子運転の原付自転車に自車を衝突させ、よつて同人に全治約二八日を要する左橈骨々折等の傷害を負わせ、たものであり、非行の都度警察官の取調を受け、反省の機会が与えられているにもかかわらず、短期間内に三回も同種非行をくりかえしている点は看過し得ないところであり、高松少年鑑別所の鑑別結果通知書も、少年の自己中心的性格、強い自己防衛的な構え、緊張が持続しにくく、物事に真剣に取組む姿勢にかけていること、対人面で表裏的なずるさがみられること等の性格特徴を挙示したうえ、少年の緊張感の乏しい運転ぶり、違反や事故に対する身勝手な見方は非常に危険である旨指摘している。

本件は、右のような少年の性格上の偏りを基底として発現した事件であるとみるべく、右のように短期間に三回も非行が累行されたことを単なる偶然とすることはできない。そして右のような事故や違反につながる、固着した性格上の負因を取り除き再非行を防止するには、もはや在宅保護では十分でなく、少年院における強度の矯正教育が必要であると思料される。

論旨は、少年の家庭は田約七反を耕作する中流の兼業農家で近隣の信望も篤く、両親揃つて健在であることから保護環境がよく、その他少年に非行歴のないこと等から、原裁判所の中等少年院送致の処分は著しく不当である旨主張するが、少年の自己防衛的なかたい殻を打ちやぶり、これを善導することは相当困難であり、社会内の処遇では無理である。また前記(一)、(三)の非行は、相当重大な被害を事故の相手方に与えており、少年、保護者、雇主らの誠意のない態度は、被害者らの不満をつのらせており(○西○勝、○井○子の各回答書)、これら記録にあらわれた諸般の事情から考えると、少年に非行歴のないこと等を考慮しても、三か月間の交通関係短期教育訓練を予定した本件中等少年院送致の処分を著しく不当な処分ということはできない。

なお論旨は、少年の性格特徴を前記のように認定することは相当でないような口ぶりであるが、右認定は専門の少年鑑別所の職員が、心理検査結果、行動観察記録等客観的資料にもとづき認定したもので、正当であると思料する。

以上の次第で原決定には事実の誤認ないしは処分の著しい不当は認められず、論旨はこれを採用できないので、本件抗告は理由のないものとしてこれを棄却すべく、少年法三三条一項後段により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 目黒太郎 裁判官 宮崎順平 滝口功)

参考 原審決定(高松家裁 昭四八(少)五七五・七七八・三八五一号 昭四八・一二・二一決定)

主文

少年を中等少年院(交通短期少年院)に送致する。

理由

(非行事実)

本件各記録中の、司法警察員作成にかかる各送致書(昭和四八年八月七日付及び同年一〇月二五日付)、並びに、交通事件原票(同年九月九日付)各記載の各犯罪事実のとおりであるからこれを引用する。

(適条)

各送致書記載の業務上過失傷害の各事実、刑法第二一一一前段、交通事件原票記載の道路交通法違反の事実、道路交通法第二二条第一項、第四条第一項、第一一八条第一項第二号、同法施行令第一条の二

少年の資質、性行、環境等は家庭裁判所調査官佐々木芳文作成の少年調査票及び高松少年鑑別所の鑑別結果通知書記載のとおりであり、少年の交通非行性は相当進んでおり再非行の危険性が高いものと認められる。

以上のほか、調査、審判にあらわれた諸般の事情を考慮すると、少年をして、自律心を養い、交通法規を遵守せしめ、非行性を洗除して健全な社会適応性を体得させるためには、もはや在宅保護の方法では不十分であり、この際少年を施設収容による矯正教育(松山少年院で実施している長期三か月の交通関係短期教育訓練)に託するのが相当である。

よつて少年法第二四条一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第三項を適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 菅浩行)

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